シノビガミリプレイ「冥府へと伸ばした手」

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こちらの記事は、Twitter上に掲載したシノビガミリプレイを、一部修正、再構成の上で掲載したものです。

本日のシノビガミシナリオは、タイトル『冥府へと伸ばした手』。死者を蘇らせる神器「禍玉(マガタマ)」を確保すべく、禍玉を宿した忍者にして、最早怪異となりつつある男「需鬼(ジュキ)」と対決するシナリオだった。
需鬼には多くの手練れ忍者が挑戦し、返り討ちに遭っている。PCたちは撃破できるのか。

PCの人となりやバックボーンを提供する、TRPGとしてはポピュラーな「ハンドアウト」システム。
今回は初めてハンドアウトを受け取ってTRPGをプレイした。ちなみに、我がPCはPC3ね。

PC1は、大規模な忍者組織に属さず、特殊能力を磨いてきたハグレモノの少年。早くに母を亡くし、父は失踪した。父の失踪とマガタマの蘇りに、関連があるらしい。
「僕は、需鬼を倒し、在りし日の家族の姿を取り戻す!」
高攻撃力の特殊能力を持つ、主人公キャラだ。

PC2は、ついこの前忍者としての能力を発現し、忍者を保護・育成する学園組織に身を置く少女。オリガミ部所属の経歴はない。
「組織から、マガタマ確保の司令を受けました」
それは、奪取後に破壊するということ?
「組織からは、確保の司令しか受けていません」

PC3が我がPC。マガタマを宿した需鬼が頭角を現すのと前後して、裏世界の表舞台(?)に姿を現したオニの男だ。ティーンエイジャーに挟まれ、武道着姿のくたびれた中年男であった。
「マガタマによる死者蘇生?やめとけ。そんなことすりゃ理が歪むし、歪みの煮凝りみたいなのも出てくる。いいことないぞ」

PCたちのファーストコンタクトは険悪であった。マガタマ確保に向けて視野狭窄気味の少年、彼を窘めつつも煽る中年、組織をバッケボーンに仲裁を余儀なくされる少女。
PC同士は睨み合い煽り合いつつも、PL同士は和気藹々とPCの関係性を相談できていた。
これぞ健全なTRPGセッション。

敵である需鬼の戦果は、不自然であった。実力ある忍者たちが、あまりにも呆気なく殺されている。
情報を収集する少女の近くに、一匹の猫が近寄ってきた。
「にゃーん」
「何!? ……なんだ、ただの猫か」
判定に失敗した少女は、猫のもたらした暗号情報を、スルーしてしまった。

PL判断によるアイテム使用。情報判定振り直し。
少女は猫の首輪に挟まった紙片に気付く。
猫が諜報機関から託された、一通の書状。そこには、諜報機関が多大な犠牲を払いながら入手した、需鬼の特殊能力が記されていた。
分身による伏兵、そして連続攻撃。ただでさえ手練れの鬼に不意打ちされてはたまらない。
とはいえ、事前にタネが割れれば、対処は充分に可能だ。少女は、仲間たちに対抗策を共有した。

オニの男も、需鬼の強さの秘密に迫っていた。断片的にもたらされた情報から、なぜ強者たちが破れたのか洞察する。
そして気付き。
マガタマの効能に未練のあるものは、マガタマと一体化した需鬼にトドメをさせなくなるのだ。
いかな強者も、マガタマを求めて戦う時点で需鬼に勝てないはずである。
そして、オニはマガタマを欲さない。勝てる。

そんなオニは、少年に問うた。
「ボウズ、どうしてお前は、マガタマを欲しがる?」
「お前に説明する必要はない」
「死んだおっかさんでも生き返らせたいか?」
「……そうだとも言えるが、ちょっと違う。……俺は、家族を、家族のあるべき姿を取り戻したいだけなんだ」
「そうか。やめとけ」

「どうして!?」
「マガタマなんてもんで死者を生き返らせても、ろくなことにはならん。やめといた方が身のためだ」
「……とにかく、俺はこの身と引き換えにしてでも、需鬼を倒す!」
「あんまり楽しくないぞ? その身と引き換えにするのも、やめといた方がいい」

オニは、死霊を操る力で探りをいれた。
自身と対峙する少年の背後から、「ユウ?」と少年の名を呼ぶ。自ら使役した、女性霊の声で。
「母さん!?」
少年の心は無防備に語る。物心つく前に母を亡くし、父は失踪した。マガタマで母を蘇らせるためだった。そしてそのまま、音信は途絶えた。
……死んだのだろう。

少年の顔から血の気が引いた。羞恥と屈辱。
ならば。
無頼を気取るオニ。貴様の正体も暴いてくれよう。
少年の持てる感覚と諜報網を全て活用し、彼はオニの正体にたどり着いた。
「……っ!?」
少年は、挑発的なオニとの舌戦に臨む言葉を失った。

オニは。くたびれた中年忍者に見えるあいつは。
人間ではない。生物でもない。
マガタマによって蘇り、再び死んだ人間たちの魂が、「あの世」への道を閉ざされ、澱み、集まり、形を持った姿。
マガタマによる「歪みの煮凝り」。オニがそう表現したそのものだった。

マガタマによる蘇りの向こうに、救いなんてない。

「気付いたか。おっかさんをマガタマで蘇らせても、末路はこれだぞ? まだやるか?」
ニヤつくオニは、挑発的に首を傾げた。
「俺は……俺は、需鬼を倒す。今はそれだけだ」
「……なら、まぁいいか。ボウズ。ともあれ、マガタマを使うのは勧めないぜ?」

少年と、少女と、オニは、都心のとあるビルの屋上に赴いた。
マガタマを宿した忍者にして鬼、需鬼の気配がもっとも強い場所。
需鬼の排除とマガタマの確保。最低限その点で折り合うことを確認したシノビたちは、敵襲に備えた。

それは、突然現れた。

逞しい背中。人か、鬼か。
それは、もう一つの人影を抱えていた。
逞しき背中、その肩の向こうに見える虚ろな目。事切れた男。
すでに生気を失い、されど鍛錬を感じさせる体格。
戦いに向けて覚悟を決めていたはずの少年の、口元が歪んだ。

おとうさん、という言葉が、零れ出ることはなかった。

事切れた男を貪る、鬼。
「冥府に向けて、こやつらはマガタマに手を伸ばす。そしてこうして、冥府に引きずり込まれて果てる。現世(うつしよ)から冥府に手を伸ばしたのだ。冥府に赴くも、本望というものであろう?」
マガタマを宿し、多くの猛者を屠ってきた鬼。
需鬼の宣戦布告だった。

「おおおおお!」
少年によるクナイの投擲が、少女の拳が、右腕を刀へと変化させたオニの刺突が需鬼に殺到する。

需鬼の胸から、メキメキと罅割れる音が聞こえた。
がばり。
新たな贄を食して力を漲らせた需鬼は、さらなる変化を果たす。
観音開きになった胸板。そこから生える無数の腕。

需鬼の腕は、シノビたちの攻撃を難なく弾き返した。追撃から逃れるシノビ。
需鬼の胸から生える無数の腕。その根本には、あるシノビの欲し、あるシノビの忌み嫌う物体が鎮座していた。

命をもたらす奇跡の玉にして、禍々しき玉。
禍玉(マガタマ)。

少女は需鬼に呼びかけた。
「理に反して、多くから狙われて。私にもいろんな人から依頼が回ってきた。あなたを、少しでも早く、楽にしてあげたいんです!」
慈愛を含む瞳。
「楽に……だと?」
需鬼が不愉快そうに笑う。 「我を『楽に』。片腹痛いわ! できるものならやってみろ! 貴様から『楽に』してくれる!」

「ぐおおっ!」
需鬼は、無数の腕と異なる両腕を、マガタマに突き刺した。
そして、苦悶とともに引き抜いた手には、凶悪な武器が握られている。

「もしかして、冥府とやらから武器を取り出してるか?」
「当たったら痛そう…‥というか死にそう」
「武器を握る手は、いくらでもあるんじゃ……」

需鬼は、時間を与えるほどに脅威を増す。
ぞっ……と、シノビたちの背を怖気が走る。
彼らの意志は一致した。
一刻も早く、全力で奴を叩く。

需鬼が跳ぶ。需鬼に余裕を与えれば、新たな武装を取り出すだろう。

「影分身の術」
少年忍者の姿がぶれる。
体内から抜刀しようとする需鬼の足元に、少年忍者が現れた。
接近戦による猛攻が、需鬼の武装強化を阻む。
そして反撃。
「奥義……」
少年の姿が、さらに分裂した。

「『絡繰り桜』!!」
分身体が放つ無数のクナイ。
クナイから現れる無数の分身忍者。
分身忍者が放つ無数のクナイ。
それらは需鬼の目前でクラッシュして砕け散り、数えようもかわしようもない「面」の礫として、需鬼を襲った。
需鬼は腹を大きく抉られ、呻いた。

(奥義:『クリティカルヒット』。通常攻撃のダメージは1のところ、一挙に4のダメージを与える)

「も、う、一発!」
オニの右腕が刀に化ける。刀の刺突が、鬼を襲う。
(遅い!)
充分に反応したと確信をもつ需鬼。しかし、その体が刀をよけることはなかった。
脚が動かない。
右半身となった前足。その甲が、オニに踏みつけられている。
ただそれだけのことで、需鬼の体にしびれが走り、動くことを許さない。

(奥義:『判定妨害』。2d6のダイス目の片方を、1に変更する。2d6の両方が出目に恵まれていると、片方の出目を下げても判定失敗に追い込めず、効果を発揮できない。オニの奥義は、合気道の演武にも登場する、足の甲踏みつけによる動きの封じ込めとして設定した。技名『零教(ゼロキョウ)』)

オニの刺突が、鬼を深く抉る。
そして、少女の手裏剣も。

需鬼は武装を強化するも、有効な攻撃を封じられていた。
(オニと少女の攻撃も、通常ダメージ1から、自前の能力で2に強化されている)

少年の奥義、少女とオニの攻撃が、需鬼を苛み続ける。

「『絡繰り桜』!」
「何度も食らうと思うか!」
「『零教』」
「ぐわあああ!?」
オニの奥義は、少年の技が回避されることすら封じた。

「ボウズ、いいコンビネーションじゃないか!?」
「うるさい!」

シノビが需鬼へ着実にダメージを蓄積する中、不穏な気配が流れる。
マガタマから生える千手による、爆発的な攻撃。
少年少女は攻撃をいなし、オニは吹き飛ばされた。
そして少年は、無数の腕の奔流をかいくぐり、マガタマへ最後の一撃を加えた。

求心力を失う無数の腕。霊とも肉ともしれぬ、不思議な感触がある。
その中から一対を選び取った少年は、それを切り落とした。

父の腕。
自身を捨てたと思っていた、しかしその実、母を蘇らせようと奔走していた、父の腕。
つい先ほど、自分の前で事切れた父の腕。

「貴様の父に、あのような技はなかったぞ……」
力を失っていく需鬼が呻いた。
「当たり前だろ! あれは俺が独自に編み出した技だ! 使命を果たすために!」

「ふん……」
おかしそうに笑って、需鬼が膝を付いた。程なくして、前のめりに倒れ込んだ。

鬼の死骸は残らない。需鬼は実体を伴わない何かとして、四散した。そして、空へと上っていった。

需鬼に挑み、返り討ちとなった怨念。時には需鬼に一方的に蹂躙された怨念。それらが天に向かっていく。

少年が切り落とした腕の持ち主である、1人の霊も。怒り、焦り、嘆きに溢れていたその表情から、“憑き物が落ちた”。
穏やかな視線は少年のそれとかち合い、口元には笑みが浮かんだ。
少年にとっては、自身を捨てたのだと、憎んでいたはずの父だ。困惑を隠せない。
しかし、薄っぺらな作り笑いを貼り付けることに成功した。

霊は一瞬目を伏せ、もう一度少年に目を合わせて微笑むと、薄まり、消えていった。

「さて」
場に残ったのは、三人のシノビ。
少年の手には、神器たるマガタマがあった。
「これ、どうする? 持ってく?」
少女に声をかける。
「そうさせてもらいます。回収を組織から依頼されてますから」
少女はマガタマを受け取り、その場を離れようとした。

「待て」

呼び止めたのは、オニの男。最後の最後に需鬼に吹き飛ばされ、頭を振っては落ち着こうとしている。

「それを使っても、できるのは俺みたいな死に損ないの煮凝りだ。使ってもろくなことにはならん。ぶっ壊すから、俺に渡せ」

歩みよるオニ。
少女は後ろ手にマガタマを隠し、いやいやと首を振った。

「渡せ」
「嫌です」
「本来なら俺も、さっきのと一緒に成仏して良さそうなもんだがな。できなかった。つまり、このためか」

オニは少女に攻撃した。
嘆きも気負いもない。
やるべきことを確信した、プロとしての行動だった。
オニは受肉して、数年も経っていないというのに。

攻撃は、完全に少女を捉えた。
しかし、傷つけることは適わなかった。
少女の影が盛り上がり、彼女の身を咄嗟に守ったから。

需鬼にすら見せなかった彼女の奥義が、皮肉にもこの場で発動した。
(奥義:『絶対防御』。まぁ、文字通り絶対防御。彼女の場合は、影を操り防壁とする)

僅かに怯むオニ。
それを尻目に、少女は逃走した。
近くには、組織の無音ヘリとのランデブーポイントがある。
そこまでゆけば、鬼ごっこは一旦終わりだ。
「ちっ」
少女の去った方に体を流したオニは、少年に体を向けた。

「良かったな」
それはオニが始めてみせる、嘲りでも挑発でもない笑みだった。

オニは少女を追って消えた。

取り残された少年は。
「俺は、使命を果たした。それはこれからも」
里に帰ろう。自身を育ててくれた、今も身を案じている老婆のところへ。
間違いなく、一つの決着が付いたのだから。

……

この話の、ほんの僅かに未来。

行方不明になっていたとある女子高生が、ひょっこりと自宅に姿を見せたことが、新聞の片隅で報じられた。

その少女には親友がいて、少女が行方不明になった直後に転校していた。
親友の転校先にはシノビを育成する教育課程があった。そして親友は敵と仲間の双方を出し抜いてマガタマを手にしたその人だったのだが……これは別の話。

(『冥府へと伸ばした手』リプレイおわり)


Written by gimpei_osawa in Games on 2020年 9月 30日(水). Tags: リプレイ,